発矢はつし)” の例文
旧字:發矢
随分非文明な男だと思ひ乍ら行きずりに過ぎやうとすると、其男の大圏おほわに振つて居る太い洋杖が、発矢はつしと許り俊吉の肩先を打つた。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と片手ながらに一揮ひとふりれば、さや発矢はつしと飛散つて、電光たもとめぐ白刃しらはの影は、たちまひるがへつて貫一が面上三寸の処に落来おちきたれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すると彼はその赤黒い罎をとり上げて事もなげにこつ/\と二度ほど額を叩き、三度目にぐるりと手を振り廻したかと思ふと、やつ! と云ふ懸け声と共に、眉間みけんを目がけて発矢はつしとばかり打ちつけた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
陰で聞いてゐる美奈子は、胸を発矢はつしと打たれたやうに思つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
これは勝誇つた自分の胸に、発矢はつしと許り投げられた美しい光栄の花環であつた。女教師が初めて口を開いたのである。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
答は無くて揮下ふりおろしたる弓の折は貫一が高頬たかほほ発矢はつしと打つ。めくるめきつつもにげ行くを、猛然と追迫おひせまれる檳榔子は、くだんの杖もて片手突に肩のあたりえいと突いたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
差付けらるるを推除おしのくるはずみに、コップはもろくも蒲田の手をすべれば、莨盆たばこぼん火入ひいれあたりて発矢はつしと割れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)