痢病りびょう)” の例文
曰く、「矢筈草俗に現の証拠といふこの草をとりみそ汁にて食する時は痢病りびょうはなはだ妙なり又瘧病おこり及び疫病等えきびょうなどにも甚こうあり云々うんぬん」。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
蘭袋は甚太夫の脈をとって見るまでもなく、痢病りびょうと云う見立てをくだした。しかしこの名医の薬を飲むようになってもやはり甚太夫の病はなおらなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その年の秋ぐち、七月にはいるとすぐに、長屋で痢病りびょうがはやりだし、妹のおゆりが五日病んで死んだ。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
途次船中の出来事について彼は語る、——自分は船の中で痢病りびょうにかかった。その時悪風が吹きいでて、船中は大騒ぎになった。するとその騒ぎで自分の痢病は止まってしまった。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ある時は、夏の泥土や草いきれの中で、怪我をした百姓や、痢病りびょうかかった者などを、眼に涙をたたえながら手当している彼の姿を見る事もあるが、仕事に直面すると、まるで仕事の権化ごんげだった。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十三歳で痢病りびょうで死んだとあるのだから別に不思議はないようなものゝ、「筑摩軍記」にはその病気の原因だの経過だのが変に事こまかに書いてあるのが、普通の場合のこう云う記事と異なって
八重申しけるはわが身かつて伊香保いかほに遊びし頃谷間の小流こながれみ取りて山道のかわきをいやせしゆえはからず痢病りびょうに襲はれて命もあやうき目にひたる事あり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
われはついまだ白からず。しかも既にわれながら老いたりと感ずること昨日今日のことにはあらず。父をうしなひてその一週忌も過ぎける翌年よくねんの夏の初、突然烈しき痢病りびょうに冒され半月あまり枕につきぬ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)