瓦盃かわらけ)” の例文
広巳は瓦盃かわらけを手にした。瓦盃には酒がすこしあった。広巳はそれを飲んで盃洗はいせんですすごうとしたが、すすぐものがないので躊躇ちゅうちょした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは頭髪を角髪みずらにして左右の耳の上につかねた頭に、油をなみなみと入れた瓦盃かわらけを置いて、それに火をともすのでありました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細長いあしのついた二つ三つの銀盆に菓子とも何とも判らないさかなを盛ってある傍に、神酒徳利みきとくりのような銚子を置いて、それに瓦盃かわらけを添えてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
甚六と甚六の女房は驚いてそのほうへ顔をやると、堂の中から何人たれかが投げつけるように位牌や瓦盃かわらけが飛んで来た。
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「人に知らさないようにすれば、瓦盃かわらけは台の上に乗せても好い」と云いました。壮い男はむすめの云うままに、折おり瓦盃を頭からおろして休んでおりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
行灯の横手に坐った恐ろしい獣のような顔をした女が、瓦盃かわらけへ油壺の油を入れて飲んでいるところであった。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
瓦盃かわらけに注ぎ、それから火打石でこつこつと火を出して灯明をあげ、それがすむと前に坐って念仏をはじめた。
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「私だ、これが瓦盃かわらけをおろして横道おうちゃくをきめておったから、折檻せっかんに入りました」と修験者が云いました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
加茂の光長は瓦盃かわらけに残りすくなになった酒を嘗めるように飲んでいた。彼はこの二三日、何処となしに体が重くるしいので、所労を云いたてにして、兵衛の府にも出仕せずに家にいた。
庭の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
耳門がいて定七が小さな白木の三宝さんぽう瓦盃かわらけを二つ三つ載っけて入って来た。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)