珈琲店コーヒーてん)” の例文
往来ゆききの人もまれであった。向うの産科病院の門、珈琲店コーヒーてん、それから柳博士や千村教授がしばらく泊っていた旅館の窓、何もかも眼にみた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日比谷ひびやには公園いまだ成らず銀座通ぎんざどおりには鉄道馬車の往復ゆききせし頃尾張町おわりちょう四角よつかど今ライオン珈琲店コーヒーてんあるあたりには朝野ちょうや新聞中央新聞毎日新聞なぞありけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
社長はそのときおれを外へ伴れだして、たぶん籠絡ろうらくするつもりだったんだろう、近くの横丁にある屋台の珈琲店コーヒーてんでコーヒーを二杯おごってくれた。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
再三御忠告……貴下が今日こんにちに至るまで、何等断乎だんこたる処置に出でられざるは……されば夫人は旧日の情夫と共に、日夜……日本人にして且珈琲店コーヒーてんの給仕女たりし房子ふさこ夫人が
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一日ぢゆう教室で為事しごとし、夕食後は暫く珈琲店コーヒーてんで時を移し、疲労し切つて新しく借りた部屋に来た。息切のするのを途中で数回休み休み到頭四階まで来て、今夜こそ安眠しよう。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は路傍の小ざつぱりとした珈琲店コーヒーてん這入はいつた。客は一人も無く暖炉台の上の蓄音器の傍に赤く塗つた鳥籠が置かれ、その中で目白が盛んにさへづつてゐる。彼はちよつと家の小鳥と妻の顔を思ひ出した。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
その病院にむかい合った六層ばかりの建築物、街路の角の珈琲店コーヒーてん暖簾のれんなぞが、両側に並木の続いた町の向うに望まれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ブラヂルコーヒーが普及せられて、一般の人の口に味われるようになったのも、丁度その時分からで、南鍋町みなみなべちょうと浅草公園とにパウリスタという珈琲店コーヒーてんが開かれた。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
巴里出発の日には、岸本は朝早く旅館を出て、行きつけの珈琲店コーヒーてんで最終の小さな朝飯をやった。麺麭パンと、珈琲とで。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)