王羲之おうぎし)” の例文
「ああ、それそれ、もう一つ仙台家に——特に天下に全くかけ替えのない王羲之おうぎしがあるそうですが、御存じですか、王羲之の孝経——」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蘭亭修禊の宴はしん王羲之おうぎしが永和九年癸丑の暮春に行ったので、嘉永六年はあたかも千五百一年目に当るのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼等の文字はいつのまにか、王羲之おうぎしでもなければ褚 遂良ちょすいりょうでもない、日本人の文字になり出したのです。しかし我々が勝ったのは、文字ばかりではありません。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを考えるときは、本から習った方がいいと気がつく。順次低下して際限なく、終には滅茶滅茶な弘法大師になる。そこで王羲之おうぎしのがいいと思ったらそれを直接習うがいい。
なるほど読めない。読めないところをもって見るとよほど名家の書いたものに違いない。ことによると王羲之おうぎしかも知れない。えらそうで読めない字を見ると余は必ず王羲之にしたくなる。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
王羲之おうぎし風の独草がそこに書き進められていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
茂太郎の面をにらみつけるように見詰めて、そのくせ、心は玉蕉女史の家の離れのあの一夜のこと——王羲之おうぎしの秘本を土産に持って来ると誓った、夢のような
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
表慶館で彼は利休の手紙の前へ立って、何々せしめそろ……かね、といった風に、解らない字を無理にぽつぽつ読んでいた。御物ごもつ王羲之おうぎしの書を見た時、彼は「ふうんなるほど」と感心していた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
王羲之おうぎしもいれば、褚遂良ちょすいりょうもいる、佐理さり道風とうふうもいるし、夢酔道人もくだを捲いている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、間違った、間違った、あれは赤穂義士の書き物というのは、こっちの聞誤りで、実は、王羲之おうぎしといって、支那で第一等の手書てかきの書いた「孝経」という有難い文章の書き物なんだそうだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それはなあ、もちろん伊達家のことだから、天下無二の宝が数知れず宝蔵の中にうなっているには相違ないが——貴殿御執心の永徳よりも、それこそ真に天下一品として、王羲之おうぎしの孝経がござるはずじゃ」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)