熔鉱炉ようこうろ)” の例文
Qは金属がたくさん集まっているので、いい気になって、その中に寝てくらしているうちにある日、熔鉱炉ようこうろの中に投げこまれ、出られなくなった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日、出がけに云われた兄の言葉も、世間も、武士道も、そんな意識は一切、恋の熔鉱炉ようこうろへ流れ込めば燃える単一な情炎の色よりほか何物でもない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下の方は横一文字の鉄道線路の土手でさえぎられているから見えません。それを熔鉱炉ようこうろの手前の縁にして、その向うに炉中の火気と見えるほど都の空は燃えています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まるで火山の噴火孔ふんかこう熔鉱炉ようこうろ真唯中まっただなかに落ちこんだのと同じこと。まばゆさに目をあいていることも出来ぬ。鼻をつく異臭にむせて、息も絶え絶えの焦熱しょうねつ地獄だ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は、自分の眼が、熔鉱炉ようこうろのように熱くなり、涙が氷のように瞼にしみるのを覚えるのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
足が砂へつくやいなや、まるで雪のけるように、ちぢまってひらべったくなって、間もなく熔鉱炉ようこうろから出た銅のしるのように、砂や砂利じゃりの上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についているのでしたが
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
城は、巨大な熔鉱炉ようこうろのように、たけびのたぎりをあげている。——その火花がやがて黒ずんで来て弱まる時、すべてのことは終るのかと思うと、信長は
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝の九時前後から立合って、ひる過ぎの四時頃になってもまだ勝負がつかなかったのである。熔鉱炉ようこうろ中の鉄とほのおのごとく心魂をこらし合ったので板敷は二人の汗ですべるばかりであった。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)