無精髯ぶしょうひげ)” の例文
見違えるほどやつれ果てた顔に、著しく白髪しらがの殖えた無精髯ぶしょうひげ蓬々ぼうぼうと生やした彼の相好そうごうを振り返りつつ、互いに眼と眼を見交みかわした。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
無精髯ぶしょうひげが伸びほうだいに顔じゅうにはびこり、陽に焼けた眉間みけんや頬に狡猾こうかつの紋章とでもいうべき深い竪皺たてじわがより、ほこりあかにまみれて沈んだ鉛色なまりいろをしていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しわの深いくちのまわりに、ばらっと、針のような無精髯ぶしょうひげの伸びているその老人の顔と、物言い振りを、それまでじっと傍観していた性善坊は、その時始めて口をひらいて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銭形平次は無精髯ぶしょうひげを抜きながら、ケロリとしてこんなことを言うのです。お盆過ぎのある日、御用がすっかり暇になって、涼みに行くほどのお小遣いもない退屈な昼下がりでした。
せて小柄のおまわりが玄関で、帳簿の私の名前と、それから無精髯ぶしょうひげのばし放題の私の顔とを、つくづく見比べ、おや、あなたは……のお坊ちゃんじゃございませんか? そう言うお巡りのことばには
黄金風景 (新字新仮名) / 太宰治(著)
白毛混しらがまじりの無精髯ぶしょうひげにかこまれた厚い唇を、いやにとがらして、その高貴な煙草——自分ではかつて一度も買ったことのない、一年に一度くらいの割合で、珍しい相手から一本を限度として与えられる
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
鼻の下の薄黒い無精髯ぶしょうひげとが、不調和についていた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
馬の上に揺られて来る顔は、夕雲に赤く映えて、その白い歯や無精髯ぶしょうひげまで明らかに見えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正吉は飛んで行って、人相のあまりよくない、無精髯ぶしょうひげの五十男をつれて来ました。
「いえ、あんな奴は始めてで、——四十ぐらいで、無精髯ぶしょうひげを生やして、天水桶の蔭へ丸くなって、半刻ばかり動かなかったんです、——が、何か見た事のある人間のような気もしますよ」
五十男の無精髯ぶしょうひげだらけな助七は、臆病らしくこう言うのです。