焚附たきつ)” の例文
物の透間すきま仄白ほのじろくなって、戸の外に雀の寝覚が鈴の鳴るように聞える頃は、私はもう起きて、汗臭い身体に帯〆て、釜の下を焚附たきつけました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一番あの女軽業のお角という女を焚附たきつけてかしてやろう、そうしてがんりきの胸倉むなぐら取捉とっつかまえて、やいのやいのをきめさして、動きの取れねえようにしておけば
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
納豆のからの苞苴つと稲村いなむらのようなかたちにつみあげられ、やがてそれが焚附たきつけにもちいられたということや、卒業間近くなって朝から夜まで通して練習のあったおりなど
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いそへ出ると、砂を穿って小さく囲って、そこいらの燃料もえくさ焚附たきつける。バケツへ汐汲しおくみという振事があって、一件ものをうでるんだが、波の上へうっすりと煙がなびくと、富士を真正面まっしょうめんに、奥方もちっと参る。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)