炉側ろばた)” の例文
庸三はきまりがわるくなったので、にわかに茶の間へ出て行って見た。葉子は姐御あねごのようなふうをして、炉側ろばた片膝かたひざを立てて坐っていたが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
杉右衛門は炉側ろばたに坐ったまま、いつまで経っても動こうともしない。やがてたきぎが尽きたと見えて焚火が漸次だんだん消えて来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
堆肥たいひ製造には持て来いの季節、所謂寒練かんねりである。夜永の夜延よなべには、親子兄弟大きな炉側ろばたでコト/\わらっては、俺ァ幾括いくぼおめえ何足なんぞくかと競争しての縄綯なわな草履ぞうり草鞋わらじ作り。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お民は松葉束を流しもとへ投げ出し、それから泥だらけの草鞋わらぢも脱がずに、大きい炉側ろばたあがりこんだ。炉の中にはくぬぎの根つこが一つ、赤あかと炎を動かしてゐた。お住はすぐに立ち上らうとした。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし炉側ろばた胡坐あぐらをかいたお民は塩豌豆しほゑんどうを噛みながら、「又壻話かね、わしは知らなえよう」と相手になる気色けしきも見せなかつた。以前のお住ならばこれだけでも、大抵あきらめてしまふ所だつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)