灯心とうしん)” の例文
旧字:燈心
ところへ花道から俳人高浜虚子たかはまきょしがステッキを持って、白い灯心とうしん入りの帽子をかぶって、透綾すきやの羽織に、薩摩飛白さつまがすり尻端折しりっぱしょりの半靴と云うこしらえで出てくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ポウッと薄黄色の灯心とうしんの光が闇黒ににじんで、珍しく取り片づいた部屋のありさまが栄三郎の眼にうつった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
田辺が家は御明みあかし灯心とうしんたぐひを商ひぬれば、二一八所せく人の入りたちける中に、都の人の忍びのまうでと見えて、いと二一九よろしき女一人、丫鬟わらは一人、二二〇たき物もとむとてここに立ちよる。
平次は二本灯心とうしん行灯あんどんを引寄せて、踏台の上に腰を掛けました。広々としたお勝手は念入りに磨き抜かれて、ちり一つない有様、十七年間忠勤をぬきんでたという、お越の働き振りが思いやられます。
屏風びょうぶの陰に用い慣れた寄木よせきの小机を置く。高岡塗たかおかぬり蒔絵まきえ硯筥すずりばこは書物と共に違棚ちがいだなに移した。机の上には油をした瓦器かわらけを供えて、昼ながらの灯火ともしびを一本の灯心とうしんける。灯心は新らしい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
声の幅に絶えざる変化があって、曲りが見えて、丸みを帯びている。蝋燭ろうそくの細きより始まって次第に福やかに広がってまた油の尽きた灯心とうしんの花と漸次ぜんじに消えて行く。どこで吠えるか分らぬ。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)