ようやく)” の例文
そこから土のにおいや枯草の匂や水の匂がひややかに流れこんで来なかったなら、ようやく咳きやんだ私は、この見知らない小娘を頭ごなしに叱りつけてでも
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私達親子のものが移ろうとした新しい巣は、着いて見ると、ようやくく工事を終ったばかりで、まだ大工が一人二人入って、そこここをつくろっているところであった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白土が掘られているのを見て心がせかれた。ようやくく頂に着いた時、私たちは既に窯場にいるのを知った。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すでに三十のではあったが、十四五のころからはやくも本多小町ほんだこまちうたわれたおれんは、まだようやくく二十四五にしかえず、いずれかといえば妖艶ようえんなかたちの、情熱じょうねつえたえて
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
田村氏の顔色はようやくく真剣味を帯びて来た。刑事部長も一膝前にのり出した。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)