海風うみかぜ)” の例文
海は紺碧の色をして、とろりと微睡まどろんでいる。濡れた肌にほどよく海風うみかぜが吹きつけ、思わずうっとりとなる。どうも、これは退屈だ。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一塊ひとかたまりづつ散つてしまふ、一人立ち去るその度に、広い海に囲まれて白々と鈍く輝やく岩壁の背がまるで零れた汚点しみを抜くやう、遠い海風うみかぜに吹き渡られて妙に侘しく漂白されるが
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
太陽はちょうど沈んだばかりで、海風うみかぜは森の樹をざわざわと鳴らして吹きまくり、また碇泊所の灰色の水面を波立たせていた。潮も遠くまで退いていて、広々とした砂地が現れていた。
海風うみかぜは北より吹きてはや寒しシナイの山には照りながら
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
海風うみかぜでしめった甲板の上を大股で歩きながら、エステル夫人が、男のようなしっかりした声で、こういう。薄いもやのなかで、朝日がのぼりかけようとしている。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
海風うみかぜがいつもよりも強く海岸に吹きつけていることがわかった。
日もすがら砂原すなはらに来てもだせりき海風うみかぜつよく我身わがみに吹くも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それこそ、薄荷はっか入りの海風うみかぜのようなすがすがしいものが、皆の心に吹き込んで、胸をいっぱいにふくらせる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いっぱいに開け放した硝子扉ケースメントから、薄荷はっか入りの、すがすがしい朝の海風うみかぜが吹き込んでくる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
海風うみかぜにでも吹かれたら、すこしさっぱりするかも知れないと思って、寝衣ねまきを脱いで、キチンと服に着かえると、イヴォンヌさんに気づかれないように、そっと甲板ウエルのほうへあがって行った。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)