浮洲うきす)” の例文
自分が水泳を習い覚えたのは神伝流しんでんりゅう稽古場けいこばである。神伝流の稽古場は毎年本所ほんじょ御舟蔵おふなぐらの岸に近い浮洲うきすの上に建てられる。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日頃の曠野こうやは、一面の泥海となっている。所々、草や木が、浮洲うきすのように見えるだけだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八重やえ立つ雲を押し分けて勢いよく道を押し分け、天からの階段によつて、下の世界に浮洲うきすがあり、それにおちになつて、つい筑紫つくし東方とうほうなる高千穗たかちほの尊い峰におくだり申さしめました。
わたくしはかつて『夏の町』と題する拙稾せっこうに明治三十年の頃には両国橋の下流本所ほんじょ御船倉おふなぐらの岸に浮洲うきすがあって蘆荻のなお繁茂していたことを述べた。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
晴れた日に砂町の岸から向を望むと、蒹葭けんか茫々たる浮洲うきすが、わにの尾のように長く水の上に横たわり、それを隔ててなお遥に、一列いちれつの老松が、いずれもその幹と茂りとを同じように一方に傾けている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)