浮々うかうか)” の例文
君江は自分との関係がえればかえってそれをよい事にして、直様すぐさま代りの男を見付けて、今と同じように、たわいもなく浮々うかうかと日を送るに相違ない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兄さんは浮々うかうかと散歩をしていて、ふと自分が今歩いていたなという事実に気がつくと、さあそれが解すべからざる問題になって、考えずにはいられなくなるのでした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あゝ詰らない/\。斯うして、浮々うかうかとしていて、自分の行末は何うなるというのであろう?」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そんなに歩が遅くちゃアとても腹一杯に物を捉え食う事はなるまい、お前ほどせて足遅と来ちゃ浮々うかうかすると何かに踏み殺されるであろう、よしか、一つ足を試して見よう
沈着おちついた所もなく、放心なげやりに見渡せば、総てはなやかに、にぎやかで、心配もなく、気あつかいも無く、浮々うかうかとして面白そうに見えるものの、熟々つらつら視れば、それは皆衣物きもので、躶体はだかみにすれば、見るもけがらわしい私欲
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
つい浮々うかうかと谷々へ釣込まれて。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それなら何うしようというのではないが、唯何にでも魂魄こころられ易くなっているから、道を歩きながら、フト眼に留った見知らぬ女があると、浮々うかうかと何処までも其の後を追うても見た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
少しは肉体からだの処々に冷たい感じをしながら、何という目的あてもなく、唯、も少し永く此の心持を続けていたいような気がして浮々うかうかと来合せた電車に乗って遊びに行きつけた新聞社に行って見た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)