洋傘かうもりがさ)” の例文
洋傘かうもりがさは二本あつても、一本を高田氏に呉れてやつたら事は済む。「真理」が二つあつたら、博士は首をめなければならなかつたらう。
かと思ふとまた黒い男の洋傘かうもりがさを窄めて突つ立てたやうなとがつた屋根、越後獅子の顎のはづれたやうなもの下駄箱の蓋をはね上げたやうにひさしの深い屋根もあります。
文化村を襲つた子ども (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「変装して行ってもらひたいな。一寸ちょっと売薬商人がいゝだらう。あの千金丹の洋傘かうもりがさがあったはずだね。」
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
例へば日本の逓信省は去年あたりから東京市内の小包制度に繁雑な拡張を実施し、米俵から洋傘かうもりがさ弁当に到る迄迅速に配達する事に成つたが、これが為にだけ市内労働者の仕事を奪つたか知れない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
唐繻子たうじゆす丸帯まるおびめ小さい洋傘かうもりがさもつ這入はいつました。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
気がついて見ると、博士は大事の/\繻子張しゆすばり洋傘かうもりがさは腋に挟んだまゝ、もう一本捜してゐるのだつた。
けれどもいつか私は道に置きすてられた荷馬車の上に洋傘かうもりがさを開いて立ってゐるのだ。
秋田街道 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
独りものの署長のことだから実際こんなことができたのだ。それから帽子をかぶり洋傘かうもりがさを持って外へ出たけれども何と思ったかもう一ぺん長靴をぬいでそれを持って座敷へあがった。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
大久保氏は吊革にもぶら下らないで、左腋ひだりわきには読みさしの『十九世紀雑誌ナインチン・センチユリ・アンド・アフタ』の五月号をはさみ、右手には幾度いくたび俄雨にはかあめにでも出会つたらしい絹紬けんちう洋傘かうもりがさをついた儘じつと立ち通しでゐた。
洋傘かうもりがさが見えないんです。先刻さつきここへ置いたと思ふんだが……」
黒い多面角の洋傘かうもりがさをひろげ
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)