泥竈へっつい)” の例文
ふらふらと引窓ひきまどの下へ行ったのである。夕方の星が、四角な狭い口から白っぽく見えた。春作は、引窓の綱にすがって、泥竈へっついの上に乗った。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猫が、泥竈へっついの下から、矢みたいに、奥へ逃げこんで来たかと思うと、西陽のさしている勝手の障子ががらっと開いて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表口で、雇い男と老婆としよりが、明日あした赤飯こわめし泥竈へっついにかけてしていた。そこから赤いまきの火がゆらいで来る。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
饅頭まんじゅうかしていた泥竈へっついの下から、おやじが、火のついているまきを一本ほうりつけると、それは城太郎にはあたらないで、軒下につないであった老馬の脚にぶつかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
範宴が、水桶をになって入ってきたのを見ると、泥竈へっついのまえに、金火箸かなひばしを持っていた学頭が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼠の蹴落けおとした荒神松こうじんまつ泥竈へっついの肩に乗っている。器用には見えてやはり男の台所だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
台所と仕事場との土間つづきの隅に、たきぎが積んであって、そのわきには土泥竈どべっついがあり、荒壁には、みのや笠などがかけてあったが——その壁に寄った泥竈へっついの蔭から、ごそりと蓑がうごいた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十一歳ばかりの女の子が、猫背を立てて、火吹竹で泥竈へっついの口をふいていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)