沢辺さわべ)” の例文
旧字:澤邊
これにて待ちます。その上にも、君命果し難き時は、この沢辺さわべにて、切腹して相果てまする。何とぞ、もう一度のお取次を
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元々村へ出るには、沢辺さわべまで降りて、沢伝いに里へ下るのだから、俄雨にわかあめで谷が急にいっぱいになったが最後、米など背負しょって帰れる訳のものでない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とうとう雷同は癇癪かんしゃくを起して、まず渓流を踏みこえ、沢辺さわべの柵門へかかった。ばりばりとそこらを踏み破る。声をあわせて、山の肌に取っつく。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに有名な紀三井寺きみいでら蓊欝こんもりした木立こだちの中に遠く望む事ができた。そのふもとに入江らしく穏かに光る水がまた海浜かいひんとは思われない沢辺さわべの景色を、複雑な色に描き出していた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
左程さほどにもない距離に思われても、歩いてみると案外、紆余うよ曲折のあるのが山道の常で、日本左衛門の飄々乎ひょうひょうこたる姿を、沢辺さわべの向うに見ていながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、やがてだらだらと上へ辿たどると、空を、おおうていた叢林そうりんもとぎれ、沢辺さわべの水明りも足元を助けて、そこに一つの道しるべの石が見出されます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つぶやきながら、武蔵は木剣を杖について、水音のする沢辺さわべの方へ、一人でガサガサと降りて行った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの爼板岩まないたいわの辺りから——そういえば沢辺さわべのほうへ降りたのかも知れぬ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると半兵衛の閑居にもう程近い山芝の広やかな沢辺さわべ
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)