欷歔ききょ)” の例文
(娘をいだく。)己が悪かった。勘忍してくれい。(娘は顔を画家の胸に押付く。画家はしずかに娘の髪を撫づ。娘忽ち欷歔ききょす。画家小声にて。)
あと欷歔ききょの声のみ。わがまなこはこのうつむきたる少女おとめふるうなじにのみ注がれたり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
衣をき、床をめぐりて狂呼す、「バーンス」詩を作りて河上に徘徊はいくわいす、或は呻吟しんぎんし、或は低唱す、忽ちにして大声放歌欷歔ききょ涙下る、西人此種の所作をなづけて、「インスピレーション」といふ
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家慈輿中よちゅうヨリコレヲうかがツテ欷歔ききょス。小弟ふところニアリ呱呱ここ乳ヲもとム。余モマタ家慈ニ向ツテしきり阿爺あやまみユルコトいずれノ日ニアルヤヲ問フ。シカモソノ幽囚ニアルヲ知ラザル也。至レバすなわチ老屋一宇。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(画家欷歔ききょす。)あなたがそうしておしまいなさったのでございますから、為様しようがございませんわ。
ダルドルフの癲狂院てんきょういんに入れんとせしに、泣き叫びてかず、のちにはかの襁褓一つを身につけて、幾度かいだしては見、見ては欷歔ききょす。余が病牀をば離れねど、これさえ心ありてにはあらずと見ゆ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)