梵音ぼんおん)” の例文
今は梵音ぼんおん難有味ありがたさも消えて、唯同じ人間世界の情慾の声、といふ感想かんじしか耳の底に残らない。丑松は彼の敬之進の物語を思ひ浮べた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
仏教に陀羅尼だらにと呼ぶものがあります。梵音ぼんおんをそのまま漢字にあてて発音するので、原文を知らぬ一般の者には、何のことかてんで分りませぬ。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
覚えずこうべを垂れた悟浄の耳に、美しい女性的な声——妙音みょうおんというか、梵音ぼんおんというか、海潮音かいちょうおんというか、——が響いてきた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
このおおどかな梵音ぼんおんが山中をゆさぶって、木の根に巣をくう虫けらまで仏願にい入るほども鳴りひびいたに、まだ執念しゅうねく呪いをかけようというのだな。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
小湊こみなとの浜で、梵音ぼんおん海潮音かいちょうおんを聞かせられたことはあるけれども、彼にはその感激はあるけれども、体得はない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
のみならず、一山諸房には鐘があって、すわといえば、九十九鐘の梵音ぼんおんが一時に急を告げて坂本口を包んでしまう。まだ峰には雪があるから四明しめいへ逃げのびるにはやっかい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お聴きなされ、衆僧がこれから梵音ぼんおんを唱え始めます」
鐘は鳴り出づ、梵音ぼんおんに、——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
鳥部ノ山の阿弥陀堂あみだどうから、夕闇の鐘は諸行無常と告げわたっている。けれど、こうすさまじく生き過ぎている人間の耳には、色即是空しきそくぜくう梵音ぼんおんも、馬の耳に念仏というものである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朽ち入るは梵音ぼんおんどよむ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
地獄極楽の見世物やら、刀玉採かたなたまどりの大道芸、皿廻しの掛け声、煮込にこみ屋の屋台、焼鳥屋の煙など——。山にはひびく梵音ぼんおんの鐘、池には映る俗衆の悦楽。これやそのまま浄土極楽か、地獄の四生六道ししょうろくどうか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓の夜あけを梵音ぼんおん
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)