桃源とうげん)” の例文
惜しい事に今の詩を作る人も、詩を読む人もみんな、西洋人にかぶれているから、わざわざ呑気のんき扁舟へんしゅううかべてこの桃源とうげんさかのぼるものはないようだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
………太平の御代みよの有り難さと云おうか、桃源とうげんの国と云おうか、久しぶりに浮世を離れたのんびりとした心持になって
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして七十歳にでもなったらアルプスの奥の武陵ぶりょうの山奥に何々会館、サロン何とかいったような陽気な仙境せんきょう桃源とうげんの春を探って不老の霊泉をくむことにしよう。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
馬春堂怪遊綺譚ゆうきたんか、まずいな、桃源とうげん夢物語、とすると人がほんとに思うまいし……武蔵野あやし草、これも面白くない、いっそ、馬春堂日記、ふん……それでもいいな、梅花堂流の易学者馬春堂先生
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仙丹せんたんに練り上げて、それを蓬莱ほうらい霊液れいえきいて、桃源とうげんの日で蒸発せしめた精気が、知らぬ毛孔けあなからみ込んで、心が知覚せぬうちに飽和ほうわされてしまったと云いたい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
桃源とうげん
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半滴はんてきのひろがりに、一瞬の短かきをぬすんで、疾風のすは、春にいて春を制する深きまなこである。このひとみさかのぼって、魔力のきょうきわむるとき、桃源とうげんに骨を白うして、再び塵寰じんかんに帰るを得ず。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)