栗饅頭くりまんじゅう)” の例文
帰りに岡野おかのへ寄って、与次郎は栗饅頭くりまんじゅうをたくさん買った。これを先生にみやげに持ってゆくんだと言って、袋をかかえて帰っていった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そのあとならたいまいの御禁止も解けるでしょ」おみきは振り向いて娘に云った、「お茶と栗饅頭くりまんじゅうがあったでしょ」
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただ不便なのは食事だが、これもいつか当座だけの用意を求めてきたらしく、呉須ごす急須きゅうすに茶を入れて、栗饅頭くりまんじゅうまで添えたのが、読み本の側においてある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その広いみせに並べてあって、その中には、外国人がクリスマスに食べるようなパイや、その他種々な生菓子が並べてあると、一方のたなの中には、栗饅頭くりまんじゅうや、金つばや
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
階下がにぎわっているので、炬燵に当りに行くのを遠慮していたが、末の妹が息をせかせか吐きながら上ってきて、「栄さんのお土産みやげ」と言って、栗饅頭くりまんじゅうを二つ机の上に置いて行った。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
彼は「栗饅頭くりまんじゅうだ」と答えた。栗饅頭は先刻さっき彼が私のうちにいた時に出した菓子であった。彼がいつの間に、それを手帛に包んだろうかと考えた時、私はちょっと驚かされた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田舎へは浅草海苔のりとかき餅がなによりということで、それだけでは先方も物足らぬであろうと思ったものですからべつに花仙堂の栗饅頭くりまんじゅうを買いまして、これがそれを容れた箱でございますが
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
栗饅頭くりまんじゅうを食べるにしたって若い方は唯もう食べることに夢中だから、割り損なって栗をこぼしたり、のどにつかえさせてせたりする、栗饅頭を食べるにはまずそっと手に取って柔らかいか固いか
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
苅田は冷えてしまった茶をすすり、菓子鉢から栗饅頭くりまんじゅうを取って喰べた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は栗饅頭くりまんじゅうを喰べたときの、苅田壮平のへつらい笑いや、哀願するような卑屈な表情が眼にうかぶと、それがさくらと共謀しているかのように思われ、烈しい個人的な憎悪ぞうおさえ感じるようになった。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)