杏子あんず)” の例文
そのワップルに二色あって、一つはクリーム入り、もう一つは、杏子あんずのジャムが入っていた。戦後も尚、ワップルは健在であろうか。
甘話休題 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
猪の焙肉あぶりにくや、薄焼や、干飯ほしいやかち栗、乾した杏子あんずなど、それぞれの包みを中に入れて巻き、それを背負えるようにしっかりとくくった。
なるほど一昼夜にち二ルーブリも払えば、旅客は静かな部屋をあてがわれるけれど、部屋の四隅よすみからはまるで杏子あんずのような油虫がぞろぞろと顔を覗け
監視がきびしく罰が重かったにもかかわらず、果樹が風に揺られるような時には、青い林檎りんごや腐った杏子あんずや虫の食ったなしなどを、ひそかに拾い取ることがあった。
杏子あんず色やシトロン色や仏手柑ぶつしゅかん色などさまざまの色で、橄欖樹オリーヴの間に輝いてるそれらの家は、木の葉の中のみごとな果実のように見える……。イタリーの幻覚は肉感的である。
湖畔にはもう春が来て、杏子あんずや梨の花ざかりで、草原にはたんぽぽが群生していた。シュピーツを過ぎると、右手は丁度ニーセンの真下で、さっき見た時と形が変って、非常に線の強さが目立つ。
吹雪のユンクフラウ (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
砂糖漬の杏子あんずで茶をのんでから、二人は別れた。こんどはただこが先に帰り、半三郎があとに残った。別れるとき、ただこはそっと彼に抱かれた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幸い好天気で、暖かないい日和だった、野道にかかると麦畑がうちわたしてみえ、さかりの桜や梅や、杏子あんずの花などが、眼の向くところに華やかな色彩を綴っていた。
おばな沢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
砂糖漬けの杏子あんずに、茶が出たあと、席を変えて酒にする、ということで、二人はその座敷を立った。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
杏子あんずくらいの大きさで、色も熟れた杏子色のなにかの果実が、平皿ひらざらの上に三つ並んでいた。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくし杏子あんずの入っているお菓子鉢を、御隠居さまの前へ直そうとしていましたの、すると急に、胸のここのところが、ずきんと、激しく痛んで、持っているお菓子鉢を手から落してしまいました。