朱雀大路すざくおおじ)” の例文
彼は何となく男の本能から悸乎ぎょつとした。美しい人びとの往来する朱雀大路すざくおおじを思うだけでも、永い間田舎に住んだかわきがそこで充たされそうであった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
柳の花の飛びちっている朱雀大路すざくおおじを、長安かなんぞの貴公子然として、毎日の日課に馬を乗りまわしている兵部大輔ひょうぶたいふの家持のすがたは何んともいえずたのしいし、又
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私どもは彼らが春風にたもとをなぶらせて羅生門の丹楹たんえい白壁の楼から左右にながく流れる平安城の築地ついじのくずれを背にして、または朱雀大路すざくおおじの柳と桜とのやわらかな下蔭にたたずむように考える。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
朱雀大路すざくおおじのはずれにある、羅生門らしょうもんのほとりには、時ならない弦打ちの音が、さながら蝙蝠こうもりの羽音のように、互いに呼びつ答えつして、あるいは一人、あるいは三人、あるいは五人、あるいは八人
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朱雀大路すざくおおじを南に下ると、やがて内裏が見えてきた。
沙金しゃきんを中に、雨雲のむらがるごとく、一団の殺気をこめて、朱雀大路すざくおおじへ押し出すと、みぞをあふれた泥水どろみずが、くぼ地くぼ地へ引かれるようにやみにまぎれて、どこへ行ったか、たちまちのうちに
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ、所々丹塗にぬりげた、大きな円柱まるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路すざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさ揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし茨木童子などは我々の銀座を愛するように朱雀大路すざくおおじを愛する余り、時々そっと羅生門へ姿をあらわしたのではないであろうか? 酒顛童子も大江山の岩屋いわやに酒ばかり飲んでいたのは確かである。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)