未生みしょう)” の例文
「この月の今日、申の刻に、あなたがここを通りあわすことは、未生みしょう前からの約束でな、この宿縁をまぬかれることは出来申さぬのじゃ」
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やがて夫人が、一度ひとたび、幻に未生みしょうのうない子を、病中のいためる御胸おんむねに、いだきしめたまう姿は、見る目にも痛ましい。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
禅家の公案に、父母未生みしょう以前本来面目というのがあるが、人間は何処どこから来て何処に去るものか、これはわからない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
人間個々が、未生みしょうからすでに宿してきた性慾、肉体の解決という課題が、文学の大事ならば、同列の人間宿命といいうる闘争本能の根体こんたい究明きゅうめいしてゆくことも、大きな課題といってよい。
宮本武蔵:01 序、はしがき (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自然ネイチュアよ! と眼をあげた刹那せつな、映じた風景は、むろん異国的ではありながら、そのくせ未生みしょう前とでもいいますか、どこかで一回はながめたことがあるという感懐かんかいが、肉体をしびれさせるほど
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
沢崎は席に就く前に、薄端うすばた未生みしょう流らしいめ方をした葉蘭はらんけてある床の間を向いてひざまずき、掛軸の書を丹念に打ち眺めている様子であったが、幸子と雪子とはそのすきに彼の後姿へ眼をった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これは俳句未生みしょう以前本来の面目である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)