木連格子きつれごうし)” の例文
宮内くないは急にいそぎ足になって、境内けいだいのかたすみにある六かくどうへ向かっていった。一けん木連格子きつれごうしが、六面の入口にはまっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大宮の庭の名残りの黄菊紫蘭とも見え、月の光に暗い勾欄こうらんの奥からはの袴をした待宵まつよい小侍従こじじゅうが現われ、木連格子きつれごうしの下から、ものかわの蔵人くらんども出て来そうです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それにつけても、こんなに荒れたままで大川屋さんに差上げては、いくら何でもお気の毒だからと申して、玉垣と鳥居を塗ったついでに、木連格子きつれごうしだけは紅殻べんがらで塗っておきました。
と観音堂の木連格子きつれごうしを明けると、畳が四畳敷いてございます。其の奥は板の間になって居ります、年の頃五十八九にもなりましょう、色白のでっぷりした尼様、鼠木綿の無地の衣を着て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを登り尽した丘の上に、大きい薬師堂は東に向って立っていて、紅白の長い紐を垂れた鰐口わにぐちかかっている。木連格子きつれごうしの前には奉納の絵馬も沢山に懸っている。めの字を書いた額も見える。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勘作は頭をあげて木連格子きつれごうしの間から中の方を見たがなにも見えなかった。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宮内はこうなだめておいて、そこのとびらをピンとめたかと思うと、こんどは、つぎから二ツ目の木連格子きつれごうしじょうをあけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といいながら門の中へ這入って見ると、木連格子きつれごうしに成っている庵室で、村方の者が奉納したものか、たんで塗った提灯が幾つも掛けてあります。正面には正観世音しょうかんぜおんと書いた額が掛けてあります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
徳蔵稲荷の木連格子きつれごうしは、紅殻を塗ったばかりだって、和泉屋の亭主は言ったね、——あの拝殿の鈴をむしり取るのは、賽銭箱の上に登らなきゃならねえが、足元が悪いから、鈴を取るとグラリと行く
「バカ! こんなほそい木連格子きつれごうしぐらい、破ろうと思えば破れるが、それでは、ごおんになった菊村きくむらさまにすまないから、おゆるしのあるまで、ジッとしんぼうしてはいっているのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妻恋坂上のささやかな稲荷、見通しの木連格子きつれごうしの前、大きな賽銭箱さいせんばこの蔭に隠れるようになって、あけに染んだ娘が一人、浅ましくも痛ましい姿を、まざまざと三月の朝陽に照らし出されているのでした。