普通たゞ)” の例文
”Pomum”には普通たゞの樹の実と、林檎と、二つの意味があるので、いつの間にかイヴが食つたのは林檎だつたといふ事になつたのだ。
私は愈々モオトンの學校を閉鎖した、その別れが私には、普通たゞではないだらうと、注意しながら。幸運は、その手を心と同じやうに不思議なほどに開くものだ。
それには普通たゞの奉公ではらちが明きませんから、いや/\ながら先生お恥かしい事になりました
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『私もまあ彼様な方だとは思ひませんでした。だつて、あんまり酷いことを仰るんですもの。その悪口が普通たゞの悪口では無いんですもの——私はもう口惜くやしくて、口惜しくて。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼は、矢避やよけを背おつた昔の軍人のやうに袷着物の背中に風をはらんで、砂埃りに消えて疾走してゐた。何処まで走るんだ! と叫んだ。……ふと、普通たゞならぬ寒気を身内に感じた。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
普通たゞの女中ぢやない。」といふ事を、私に呑込ませようとしたらしい。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
役人とか会社の重役とかの弁当箱には是非書いておきたいやうな文句だが、普通たゞの人には一寸咽喉のどつかへさうでけない。
見る筈が無いんですもの。だつて、其夢が普通たゞの夢では無いんですもの。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
尤も此給仕人は普通たゞの奴では面白くない。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
芸術家の心境が、普通たゞの人と違つてゐるのはこゝの事で、須磨子もこの消息はよくわきまへてゐるものとばかり私は信じてゐた。力のみでは足りない、修養の境地である。
其様子が何となく普通たゞでは無い、と丑松もて取つて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それも普通たゞの智慧比べとは違つて、狭からぬ土地を賭けて、互に領地のとりをしたものだ。
それに自分は今度のしばゐでは作者であり、伊藤公は普通たゞ観客けんぶつに過ぎない。作者が観客けんぶつに座を譲るやうな気弱い事では作者冥加みやうがに尽きるかも知れないからと、そのまゝ素知そしらぬ顔でじつと尻をおちつけてゐた。