時々じじ)” の例文
そうして時々じじ不眠のために苦しめられた。また正直にそれを家族の誰彼に訴えた。けれども眠くて困ると云った事はいまだかつてなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしは詩を作り歌をむ。彼は知人の采録さいろくするところとなって時々じじ世間に出るが、これは友人某に示すにすぎない。
なかじきり (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その上いつも経費が不足し意外に手数のかかる事が多いので極堂君はその続刊困難の事を時々じじ居士に洩らして来た。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ほとんどすべからざるに至り、時々じじ狂気じみたる挙動さえいちじるしかりければ、知友にも勧誘を乞いて、鎌倉、平塚ひらつか辺に静養せしむべしと、その用意おさおさおこたりなかりしに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「勲章は時々じじの恐怖に代へたると日々の消化に代へたるとあり」とよんだ芸術境にも反した「荒男神」のロマンティシズムをもって現れながら、境遇の人間的な現実は抑えがたくて
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
内閣にしばしば大臣の進退あり、諸省府に時々じじ官員の黜陟ちゅっちょくあり。いずれも皆、その局に限りてやむをえざるの情実に出でたることならん、珍しからぬことなれば、その得失を評するにも及ばず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
五百は平生へいぜい病むことがすくなかった。抽斎歿後に一たび眼病にかかり、時々じじ疝痛せんつううれえた位のものである。特に明治九年還暦ののちは、ほとんど無病の人となっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
保は病のために時々じじ卒倒することがあったので、松山棟庵とうあんが勧めて都会の地を去らしめたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
抽斎は時々じじ譫語せんごした。これを聞くに、夢寐むびあいだに『医心方』を校合きょうごうしているものの如くであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)