是認ぜにん)” の例文
私達はとてもあの人達のやうな自信じしんほこりを持つことが出來なかつた。決して現在げんざいの自らの心の状態を是認ぜにんすることが出來なかつた。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そう思いながらも、いっこうその兄に対する反撥心はんぱつしんの起らぬのが、自分でも不思議でならなかった。彼は心のうちのどこかで兄を是認ぜにんしていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
大きな人間的規格とはべつな意味で、単なる知性とか教養とかいう履歴の上では、遥かに自分より彼のすぐれていることを是認ぜにんするだけの寛度かんどを持っていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……むろん、私は、愛情も忍耐心も失った、ああした乱暴な打ちかたを是認ぜにんはしていない。また、それをやむを得ないことだとして弁護しようとも思っていない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
バアトンは又基督キリスト教的道徳にわづらはされずして、大胆率直だいたんそつちよくに東洋的享楽主義を是認ぜにんした人で、したがつて其の訳本も在来の英訳「一千一夜物語」とは甚だおもむきことにしてゐる。
彼女達がこのんで讀むものは私も好きだつた、彼女達が面白いことは私にも愉快だつた。彼女達が是認ぜにんすることは私も尊重したのであつた。彼等はその離れ家を愛した。
定めて驚くかと思いのほか、奥さんもその事実をやや是認ぜにんしているらしい口振りであるので、わたしは意外に感じながら、黙ってその顔をながめていると、奥さんは溜息まじりで言い出した。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに結婚して了へばあなたの眼にも、それを是認ぜにんさせる位の愛情は大丈夫生れて來るものですよ。
「それもそうか」と、是認ぜにんしかけたが、また、一方はその言をひるがえした。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘗てはその言葉と態度に或る嚴肅な魅力を與へてゐた興味と是認ぜにんの心を、あらゆる行爲、あらゆる言葉からどんな技倆で引出し得るかを示すことに、彼の内なる敗徳はいとくの人間が
と、娘の云い条に、是認ぜにんも与えなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)