旧巣ふるす)” の例文
人間も渡鳥のように、時節が来るや否や、わけもなく旧巣ふるすを捨てて飛去ることができたなら、いかに幸であったろう。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
窟の入口には落葉を焚いて、一人の警部と二人の巡査が張番はりばんしていた。重太郎や𤢖が何時なんどき旧巣ふるすへ帰って来るかも知れぬので、過日来かじつらい昼夜交代で網を張っているのである。塚田巡査は挨拶した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は阿容〻〻おめおめとまた粕谷の旧巣ふるすに帰って来ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旧巣ふるすくはへて飛び去りぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「俺も悪いことをた。」と、彼は今更のように悔恨の情に打たれた。が、のお杉は二十年ぜんから旧巣ふるすへ戻って、加之しかも今やおいたるかばねを窟の底によこたえていようとは夢にも思い及ばなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)