旋律メロディ)” の例文
それは気のせいだったかも知れないと人はうたがったろう。しかしそれは確かに口笛に違いなかった。次第に明瞭めいりょうになる旋律メロディ
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きいていると、それは、ベートーヴェンの『月光の曲ムウンライト・ソナタ』の緩徐調アダジオ旋律メロディなんです。……ようやくわかりました。ボクさんは、こういっているのです。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それから静かなる旋律メロディのうちにひたすらに身を浸さんとした。然し彼は知らず識らずに叔父の方へ注意を引かれた。
恩人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
常に強者の横暴おうぼうを極むる事を見て義憤する時、ひるがえつてこの頼りなき色彩の美を思ひそのうちに潜める哀訴の旋律メロディによりて、暗黒なる過去を再現せしむれば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その癖この曲の主題になって居る単調な不気味な旋律メロディが、ともすれば私の耳にこびり付き、その主題の数小節が、私の冥想や夢の中で、舞踏することさえあるのです。
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あの一つの旋律メロディり返され繰り返されているうちに曲が少しずつ展開して行く、それがまた更に稽古をしているために三四回ずつひとところを繰り返されているので
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
銀色のもやが、地面に低く、また鏡のような水の上に、漂っていた。かえるが語り合っていた。牧場の中には、がまの鳴く笛の音の旋律メロディが聞こえていた。蟋蟀こおろぎの鋭い顫音トレモロは、星のひらめきに答えてるかと思われた。
いま丁度ちょうど、休憩時間であるが、散歩廊下にも喫煙室にも食堂にも、「赤い苺の実」の旋律メロディを口笛や足調子で恍惚こうこつとして追っている手合が充満じゅうまんしていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひるがえつてこの頼りなき色彩の美を思ひそのうちひそめる哀訴の旋律メロディによりて、暗黒なる過去を再現せしむれば、忽ち東洋固有の専制的精神の何たるかを知ると共に
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
広場は躑躅つつじの客で一杯ですが、この辺は森閑として人の気配もありません。時々風の具合で、寄る浪のように聴えるのは、ヨハン・シュトラウスのワルツらしい。柔かい甘い旋律メロディです。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
聞くともなしに聞いていると、なんのことだ、それは彼にも聞き覚えのある旋律メロディであったではないか。それはいま小学生でも知っている「赤いいちごの実」の歌だった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)