ひさげ)” の例文
それから、一時間の後、五位は利仁やしうと有仁ありひとと共に、朝飯の膳に向つた。前にあるのは、しろがねひさげの一斗ばかりはいるのに、なみなみと海の如くたたへた、恐るべき芋粥である。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然ればひさげに湯を熱く湧して、折敷をしきを其の鼻通る許に竅て、火の氣に面の熱く炮らるれば、其の折敷の穴に鼻を指通して、其の提に指入れてぞ茹、吉く茹て引出たれば色は紫色に成たるを
おきなも、もうひさげの水で、泥にまみれた手を洗っている——二人とも、どうやら、暮れてゆく春の日と、相手の心もちとに、物足りない何ものかを、感じてでもいるような容子ようすである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、「芋粥」の作者は、利仁の館で、銀のひさげの一斗ばかりはいるのに、なみなみと海の如くたたへた恐るべき芋粥を見て、食はずに飽きた五位の心理を摘發する事に話のポイントを置いてゐる。
そこで弟子の僧は、指も入れられないような熱い湯を、すぐにひさげに入れて、湯屋から汲んで来た。しかしじかにこの提へ鼻を入れるとなると、湯気に吹かれて顔を火傷やけどするおそれがある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)