愕然ぎょっ)” の例文
入口の左右にある六弁形の壁燈を見やりながら、法水が拱廊の中に入ろうとした時、何を見たのか愕然ぎょっとしたように立ち止った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、顔は真蒼で、くちがゆるんで、白い歯並や歯齦はぐきがむき出ているばかりでなく、手をふれると異様な冷さを感じたので、愕然ぎょっとして突離した。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
泰軒があぶない! と見て踏み出した栄三郎も、眼前に立ち現われたこの侍の相形そうぎょうには、思わず愕然ぎょっとして呼吸を切った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一度ひとたび愕然ぎょっとして驚いたが耳を澄まして聞いていると、上の方からだんだんと近づいて来るその話声は、ふたたび思いがけ無くもたしかに叔父の声音こわねだった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ほとんど脳天から水を浴びせられたように愕然ぎょっとして見上げると磯は、皮肉な冷笑を浮べながら立っていた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
伊那少年の横顔からサッと血の気がせた。おびえたように眼を丸くして俺と船長の顔を見比みくらべた。ホットケーキを切りかけた白い指が、ワナワナと震えた。……船長も内心愕然ぎょっとしたらしい。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
美奈子は愕然ぎょっとした。彼女は、しばらくは返事が出来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鎧櫃の中で、ひとりぼんやり薄笑いをもらしていた女は、このとき愕然ぎょっとして呼吸いきを呑んだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すると源三はこれを聞いて愕然ぎょっとして、秘せぬ不安の色をおのずから見せた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時梯子を下りかけていた妹娘のイリヤは、愕然ぎょっとしたように振り向いたが、警部の正服を見ると、すぐ険しい緊張を解いた。その六尺近い豊かな肉付きは、まさにアマゾンと云う形容であろう。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
愕然ぎょっとしてマスクを投げだし、あわてて女の眼瞼まぶたをあけると瞳孔が散大して、虹彩が殆んどなくなっているではありませんか。私は『待った!』と叫ぼうとしたが、言葉が咽喉のどつかえて出て来ません。
麻酔剤 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その袖を見て、安兵衛、愕然ぎょっとした。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
愕然ぎょっとして突っ立ちました。」