悧発りはつ)” の例文
旧字:悧發
「お父さま、」と悧発りはつそうな八つの娘が、眼をぱちくりさせて尋ねた。「落したお金が十一文だという事がどうしてわかりました。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はかつて夢の中で、数人の友だちと一緒に、町の或る小綺麗こぎれいな喫茶店に入つた。そこの給仕女に一人の悧発りはつさうな顔をした、たいそう愛くるしい少女が居た。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
多くの記念塔の頸輪くびわをつけ、悧発りはつげな無頓着むとんじゃくさで伸びをして、またそぞろ歩きの美人のように、自分の美しさに微笑ほほえんでいる、身こなしたおやかな優美な河であった。
楽和はもと茅州ぼうしゅうの生れで、生れつき悧発りはつで器用なたち、わけて耳の官能がすぐれていた。ひとたび聞いた唄はすぐ覚え、しかも節まわしが巧みで、すこぶる美音だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内儀さんは、家にいても夫婦一つの部屋で細々こまごま話をするようなことは、めったになかった。悧発りはつそうなその優しい目には、始終涙がにじんでいるようで、狭い額際ひたいぎわも曇っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
十八というにしては、ませた娘で、可愛らしくも悧発りはつでもありますが、持っていた紅皿は、指の跡がたくさんあるだけ、紅筆を使った様子も、紅筆などを持っている様子もありません。
それだけではない、その中の悧発りはつなる子供を選抜し官費生にして充分教育する。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女の語る一言一句が、遠い国の歌のしらべのように、哀韻あいいんを含んで私の胸に響いた。昨夜のような派手な勝ち気な悧発りはつな女が、どうしてこう云う憂鬱ゆううつな、殊勝な姿を見せることが出来るのであろう。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かつは一を知って十を知る悧発りはつであるばかりでなく、四川弓しせんきゅうと呼ぶ短弓たんきゅう手挟たばさみ、わずか三本の矢を帯びて郊外に出れば、必ず百きんの獲物を夕景にはさげて帰るというのでも
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アンドレは悧発りはつであって、科学に——または文学に——同じくらいかなりの天分をもっていた。芸術家たるには十分の自信がなかったけれど、中流者たるにはあまりに多くの自信があった。
俺の手柄と言いたいが、それは神津右京様の御総領吉弥様の働きと言ってもいい。——吉弥様は十四という御幼少だが、根が悧発りはつの方で、一と目泥棒を見てよくその癖を覚えていて下すった。
あの悧発りはつな子のことですから、お局方つぼねがたにも愛され、信長公からも、またなく可愛がられていたそうですが、天正十年、信長公も本能寺で御最期となり、安土もあんなことになって
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時は本所ほんじょで鳴らした御用聞——石原の利助の一人娘で、美しさも、悧発りはつさも申分のない女ですが、父親の利助が軽い中風で倒れてからは、多勢の子分を操縦して、見事十手捕縄を守りつづけ
殺されたのは、町内の物持で荒物屋に質屋を兼ねている、近江屋おうみやの一人娘お新、美しいのと悧発りはつなのと、婿選びがむつかしいのとで、神田、番町あたりへまでも噂に上っている娘だったのです。
五十幾人のこどもは、将軍家斉の濫倫の産物で、中には碌でもないものもありましたが、末の娘の京姫は美しくもあり悧発りはつでもあり、その上少しおきゃんで勝気で、冒険的な気質さえ持って居りました。