思浮おもいうか)” の例文
つづいて杉村の醜い容貌と、お千代がさしてこれをいとう様子もなく歓遇かんぐうしているありさまとを思浮おもいうかべ、女の性情ほど変なものはないと思った。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これでこの話はおしまいに致します。古い経文きょうもんの言葉に、心はたくみなる画師えしの如し、とございます。何となく思浮おもいうかめらるる言葉ではござりませぬか。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつも書きものはたまっておいでなのですから、大事な時をつぶすというばかりでなく、そのお気持の悪さを思いやって、お機嫌の悪い時のお兄様の俯向うつむいた額に見える太い脈を思浮おもいうかべるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
二郎はもう真青まっさおになって、次に取るべき手だても思浮おもいうかばぬ様子だ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ことにその幾日というものは其処そこで好い漁をしたので、家を出る時には既に西袋の景を思浮おもいうかべ、路を行く時にも早く雲影水光うんえいすいこうのわが前にあるが如き心地さえしたのであった。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なぞとぎんじたる風流の故事を思浮おもいうかべたのであった。この事は晋子しんしが俳文集『類柑子るいこうじ』のうち北の窓と題された一章に書かれてある。『類柑子』は私の愛読する書物の中の一冊である。