せわし)” の例文
力なき小芳の足は、カラリと庭下駄に音を立てたが、枝折戸のまだかぬほど、主税は座をずらして、障子の陰になって、せわし巻莨まきたばこを吸うのであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来月のせわしさを見越して、村でも此月ばかりは陽暦ようれきで行く。大麦も小麦も見渡す限り穂になって、みどりの畑は夜の白々と明ける様に、総々ふさふさとした白い穂波ほなみただよわす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
また甘えるように、顔を正的まともに差出して、おとがいを支えた指で、しきりにせわしく髯をひねる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弱虫ばかり、喧嘩の対手あいてにするほどのものも居ねえ処だから、そン中へ蹈込んで、骨のある妖物ばけものにでも、たんかを切ってやろうと、おいらなんするけれども、ついせわしいもんだから思ったばかし。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)