微笑わらい)” の例文
お前が、さも新吉の凄じい権幕におびえたように、神経のこわばった相形そうぎょういて微笑わらいを見せながら、そういって私の部屋に入って来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
考えていたことを確かめ得たものか急に藤吉、水を噴くように上を向いて笑い出した、晴ればれとした、小児のような微笑わらいである。
そのときの彼にも、前日に見たいくらか浮調子なへらへら微笑わらいがなくて、どこか「恐わい」ものを自分の中に抱いて生きている男の様子があった。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
日本外史にほんがいしとどっちがおもしろい」と僕が問うや、桂は微笑わらいを含んで、ようやく我にかえり、いつもの元気のよい声で
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私はちょっと返事に詰ったものの、負け惜しみから口唇に微笑わらいを見せて、横を向いて居りました。するとあの人は少時暗い顔をして沈んで居ましたが
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
窓わきに椅子を寄せて、頻りに編物をしていたビアトレスは坂口の姿を見ると、微笑わらいながら立ってきた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
娘は頬の辺にまだ微笑わらいのほのめいている貌をちょいとふり上げて自分の貌を見たが、その笑い貌の中には、「なぜそんなに人の貌を見て」と尋ねるような風があッたので
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
わたしは微笑わらいみながら真面目まじめになって、そのくせ後へはむきもせずに耳をすましていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
三合だった……飲んでそれから……しきいをへだててほろ酔いで床につく……お綱がびんを枕へつけながらニッとこっちへこびをむける……意味ありそうな、水向みずむ微笑わらい……初心うぶだなあ
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛嬌あいきょうのよい微笑わらいを浮べた少年は、トン/\と飛ぶように階段を馳け降りて来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
幸福しあわせ歓喜よろこび、唄、微笑わらい
妻と息子と、二人にひやかされて、惣平次は、人のよさそうな微笑わらいを笑った。