彷彿ちらつ)” の例文
で、私の臆病には自分ながら愛想あいそきる位で、倫敦へ帰ったのちも、例の貴婦人の怖い顔が明けても暮れても我眼わがめ彷彿ちらついて、滅多に忘れるひまがない。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
楽しい学生時代の種々さま/″\は丑松の眼前めのまへ彷彿ちらついて来た。丁度自分も同級の人達と一緒に、師範校の講師に連れられて、方々へ参観に出掛けた当時のことを思ひ浮べた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その夜はのままにして再び寝台へあがったが、の怖しい顔がまだ眼のさき彷彿ちらついて、とても寝られる筈がない、ただ怖い怖いと思いながら一刻千秋のおもいそのあかした。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それを思うと、銀座で逢った人が余計に大塚さんの眼前めのまえ彷彿ちらついた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わが眼の前に絶えず彷彿ちらつく怪しの影を捉えて、一心不乱に筆を染めた結果、うやらうやらしんを写し得て、大略あらまし出来しゅったいした頃、丁度ちょうど私と引違ひきちがえての別荘へ避暑に出かけた貴族エル何某なにがし
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)