きゆう)” の例文
粗羅紗の長上衣を著て長いねぢれた泥鰌髭をはやした楽師がきゆうを一触するや、一同の者が否応なしに、一斉に調子をそろへて踊り出す、その光景を眺めては
勘定高い聴衆ききての誰彼は、きゆうのさきから、金貨が一つづつこぼれおちるやうに思つて、腹の底から揺り動かされた。
大きチエロ立ちかかへつつ夜はあかし押しあててきゆうのいまだしづけさ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
暫くすると、この名高い提琴ヴアイオリン弾きは、客の前に現はれた。そしてきゆうを取りあげるといきほひよく弾き出した。
茫漠たる虚空の中に、はつきりしない響きをぼかし、消して、いつかきゆうの音も跡絶えてしまつた。
立ちかまへかかふるチエロは黄褐の女体なりきゆうのかいなづる胸
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
聴衆ききては声をたてて笑ひ出した。だが、音楽家がきゆうを取ると、すぐにしづまりかへつて耳をすました。
チエロの胸ひたかきむしりたひらなり揺り曳きにけりに光るきゆう
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)