わたどの)” の例文
わたどのの戸のあいた所が目について、静かにそこへ寄って行って、のぞいて見ると、向こうの座敷では姫君たちが碁の勝負をしていた。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ベルラ、ナポリ」と呼びつゝ、夫人は外套の紐を解き、そのに向へるわたどのの扉を開き、もろ手を擴げて呼吸したり。
外套をばこゝにて脱ぎ、わたどのをつたひて室の前まで往きしが、余は少し踟蹰ちちゆしたり。同じく大學に在りし日に、余が品行の方正なるを激賞したる相澤が、けふはいかなる面もちして出迎ふらん。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
是れ館より牢獄に往く道にして、名づけて歎息橋と曰ふとぞ。橋に接する處は即ち牢井らうせいなり。わたどのに點じたる燈火ともしびは僅かに狹き鐵格てつがうを穿ちて、最上層のひとやを照し出せり。
外套をばこゝにて脱ぎ、わたどのをつたひて室の前まで往きしが、余は少し踟蹰ちちうしたり。同じく大学に在りし日に、余が品行の方正なるを激賞したる相沢が、けふはいかなる面もちして出迎ふらん。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と言いながらも、その座敷とこちらの庭の間に透垣すいがきがしてあることを言って、そこの垣へ寄って見ることを教えた。薫の供に来た人たちは西のわたどのの一室へ皆通してこの侍が接待をするのだった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
我は小兒の如くすかされて、小兒の如く泣きつゝ、又來んを許し給へ、許し給へと繰返しつ。戸は、さらばといふ最後の一こゑに鎖されて、われは空しく暗黒なるわたどのの中に立てり。
外套がいとうをばここにて脱ぎ、わたどのをつたいてへやの前まできしが、余は少し踟蹰ちちゅうしたり。同じく大学に在りし日に、余が品行の方正なるを激賞したる相沢が、きょうはいかなるおももちして出迎うらん。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)