常盤座ときわざ)” の例文
「お姉さん! こんど常盤座ときわざへ行ってみない、三館共通で、朝から見られるわよ、私、歌劇女優になりたくって仕様がないのよ。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
常盤座ときわざの前へ来た時、突き当たりの写真屋の玄関の大鏡へ、ぞろぞろ雑沓する群集の中に交って、立派に女と化けおおせた私の姿が映って居た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昭和十二年、わたくしが初めてオペラ館や常盤座ときわざの人たちと心易くなった時、既に震災前の公園や凌雲閣りょううんかくの事を知っている人は数えるほどしかいなかった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あいつがまだ浅草田原町たわらまちの親の家にいた時分に、公園で見初みそめたんだそうだ。こう云うと、君は宮戸座みやとざ常盤座ときわざの馬の足だと思うだろう。ところがそうじゃない。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が「常盤座ときわざの切符をやろうか。」とジャンパーのポケットに手を入れて思わせぶりな様子をしたら、「くれよ。くれよ。」と飛びついてきて、嘘だとわかると
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
これもむかしは姫松といって、大歌舞伎の俳優であったそうであるが、中年から小劇場におちて、わたしが初めて彼の舞台をみたのは浅草公園の常盤座ときわざであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千日前常盤座ときわざ横「寿司すし捨」の鉄火巻とたいの皮の酢味噌すみそ、その向い「だるまや」のかやくめしと粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手げてもの料理ばかりであった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
おきみ婆さんはいつも千日前の常盤座ときわざの向いの一名「五割安」という千日堂で買うてくる五厘の飴を私にくれて言うのには、十吉ちゃんは新ちゃんとちごて、継子やさかい
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
小劇場——真砂座、柳盛座、新市村座、三崎座、新盛座、浅草座、吾妻座あずまざ常盤座ときわざ、藍染座。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ジャズ舞踊と演劇とを見せる劇場は公園の興行街には常盤座ときわざ、ロック座、大都劇場の三座である。踊子の大勢出るレヴューをこの土地ではショーとかヴァライエチーとか呼んでいる。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)