岳樺だけかんば)” の例文
旧字:嶽樺
蹄の痕にいて崩れ易い側崖の縁を、偃松や岳樺だけかんばの枝から枝へと手を伸して、引き上げるように足を運ぶ。やっと雪田の上の崩れへ出た。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかしつれの青年はまるでこっちの問答など聞えもしないようすで、片方の脚にからだの重みを支えながら、岳樺だけかんばの芽ぶきはじめたみずみずしい枝をうっとりと見あげていた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この谷を登ると岳樺だけかんばのまばらに生えた広い尾根に出ることができた。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
谷が尽きてから偃松や岳樺だけかんばの間を登るのが少し厄介であるが、十五、六分で頂上へ出られる。自分は川端下道の中では、これが一番簡単で一番楽なような気がする。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
……そこは東北に向いた横庭で、亡くなった父の植えた岳樺だけかんばが五六本あるほかは、袖垣のいばらが枝をのばしたのや矢竹のやぶなどが、手入れをしないので勝手に生えひろがっている。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夫から左に一の窪を伝って、岳樺だけかんばの疎らに生えている恐ろしい急傾斜を二十間も登ると偃松はいまつが現われ、傾斜も少しく緩くなって、やっと安心の胸を撫で下ろすことが出来た。
八ヶ峰の断裂 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
つのぐむ草の芽立ちがほの紅く匂ったりして、登山者の目を楽しませ、近くの岳樺だけかんば深山榛みやまはんのきひくい林の中では、鶯、駒鳥、大瑠璃おおるり其他の小鳥が囀り交わして、快い響を漂わしている。
山の魅力 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
雪が尽きると谷はにわかに蹙まり、竪樋のように急峻となったので、左側の尾根に移り、丈の高い偃松に交って岳樺だけかんば七竈ななかまど深山榛みやまはんのきなどが灌木状に密生している中を押し分け掻き分け攀じ上った。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
此時濛々もうもうたる雲霧は東の方野呂川の渓谷から湧き上って、甚しく視界を狭める。鳩は二、三回頭の上を飛び廻ると、つい近くの岳樺だけかんばに止ってしまった。皆石を投げたり声を挙げたりして追い立てる。
米栂こめつが、黒檜、白檜などが多少の偃松も交って、石楠しゃくなげ岳樺だけかんばなどの闊葉樹と共に、矮い灌木状をなして巨岩の上に密生しているさまは、磊砢らいらたる嶄巌ざんがんを錯峙させている南側よりも寧ろ私は好きである。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)