尻切しりき)” の例文
もっとも、こんな尻切しりきれトンボのような狂言を実際舞台でやれるかどうかは知りませんが、決して無邪気に笑うことはできないでしょう。
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
村子 いえさ、さっきの——(言っているうちに地震はおさまったようだし、その時、佐山がムックリ起きあがったので、それに気をとられて、言葉は尻切しりきれになる)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
これはわざといひつくさなかつたといふより、いひつくしたゞけでは滿足まんぞく出來できなかつたので、かういふ尻切しりきれとんぼのようになつてゐるのですが、かへってひとこゝろ
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
と、中で、年の若い男が、尻切しりき草履ぞうりを突ッかけて、あたふたと、長屋の路次を飛びだして行った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「星宮君。私の第三話が、もうすこしで、尻切しりき蜻蛉とんぼになるところだった。幸い君は生命をとりとめたようだから、サアここへ坐って、あの話の続きを聞いてくれ給え」
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はげた茶の帽子に、藍縞あいじま尻切しりき出立でだちと、陽炎かげろうさえ燃やすべき櫛目くしめの通ったびんの色に、黒繻子くろじゅすのひかる奥から、ちらりと見せた帯上おびあげの、なまめかしさ。すべてが好画題こうがだいである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを捜査方針が変わったとはいえ尻切しりきれとんぼにしておいて、遺族のほうの調査に回されたということは彼にとっては決していい気持ちはしなかった。でも、命令とあればぜひもない。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
中では一番年増としかさの金ちゃんは尻切しりき草履ぞうりを引きずって門柱もんばしらに手を掛けながらとびらの陰にかくれて恐々覗いている私を誘った。坊ちゃんの小さい姿は町っ子の群れに取り巻かれて坂を下った。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)