小売店こうりみせ)” の例文
旧字:小賣店
両国りょうごく広小路ひろこうじに沿うて石を敷いた小路には小間物屋袋物屋ふくろものや煎餅屋せんべいやなど種々しゅじゅなる小売店こうりみせの賑う有様、まさしく屋根のない勧工場かんこうばの廊下と見られる。
近所に同じ小売店こうりみせが二軒あって、われわれがその一方のみで物を買っても、決してほかの店から抗議を申さるべき訳はない。机を並べた同僚の間でも、気が合わねば親しくは交わらぬ。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
長吉ちやうきちは外へ出ると急いで歩いた。あたりはまだあかるいけれどもう日はあたつてない。ごた/\した千束町せんぞくまち小売店こうりみせ暖簾のれんや旗なぞがはげしくひるがへつてる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あたりはまだあかるいけれどもう日は当っていない。ごたごたした千束町せんぞくまち小売店こうりみせ暖簾のれんや旗なぞが激しくひるがえっている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
荷船の往来ゆききせわしく見えたが、道路は建て込んだ小家と小売店こうりみせの松かざりに、築地つきじの通りよりも狭く貧しげに見え、人がなんという事もなく入り乱れて、ぞろぞろ歩いている。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて坂を下りつくすと両側に居並ぶ駄菓子屋荒物屋煙草屋たばこや八百屋やおや薪屋まきやなぞいずれも見すぼらしい小売店こうりみせの間に米屋と醤油屋だけは、柱の太い昔風の家構いえがまえが何となく憎々しく見え
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)