寺中じちゅう)” の例文
旅棺というのは、旅さきで死んだ人を棺におさめたままで、どこかの寺中じちゅうにあずけておいて、ある時期を待って故郷へ持ち帰って、初めて葬を営むのである。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
巡「別にうちもございませんから、お寺様のお台所だいどこかして戴いたり寺中じちゅう観音かんおんさまのお堂のお縁端えんばたへ寐たりいたして、何処と云ってさだまった家はありません」
その赤子の啼声をあたかも通りかゝつた久圓寺の僧が聞きつけて拾ひあげた。しかし女の乳のない寺中じちゅうで赤子を育てるのは難儀なので、乳の代りに飴をあたへてゐた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
一箇所大きい寺のあるあたりには塔中たっちゅうまた寺中じちゅうと呼ばれて小さい寺が幾軒も続いている。そして町の名さえ寺町てらまちといわれた処は下谷したや浅草あさくさ牛込うしごめ四谷よつやしばを始め各区に渡ってこれを見出すことが出来る。
女の住んでいない寺中じちゅうでは、僧侶が針や鋏を持つことが無いとも云えない。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
湯屋の裏口から駈出して小日向に参りましたのは、祖父じゞ祖母ばゞの葬ってある寺は小日向台町だいまち清巌寺せいがんじで有りますから参詣を致し、それから又廻り道をして両国へ掛って深川霊岸れいがん寺中じちゅう永久寺えいきゅうじへ参り
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お前はゆうべ此の寺中じちゅうに泊まったのか」
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)