富津ふっつ)” の例文
富津ふっつに滞在している知り人の安否を尋ねたあと、その漁村から歩いて行けば房州ぼうしゅうのほうへ出られる道のあることを知りました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
観音崎と富津ふっつ岬とが相抱いた東京湾口は、魚の楽園らしい。どんな魚でもゐる。それは餌が豊富であるのと、潮の流れが生きてゐるためであると思ふ。
東京湾怪物譚 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
わたしの父は富津ふっつの台場の固めを申し付けられて出張した。末の弟、すなわち私の叔父も十九歳で一緒に行った。
父の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千葉、木更津きさらづ富津ふっつ上総かずさ安房あわへはいった保田ほた那古なご洲崎すさき。野島ヶ岬をグルリと廻り、最初に着くは江見えみの港。それから前原港を経、上総へはいって勝浦、御宿おんじゅく
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
星巌夫妻は東金を発して勝浦を過ぎ房州の沿岸を廻って洲ノ崎、館山たてやまを経て富津ふっつに来り、木更津きさらづより水路を行徳に還った。行徳より更に舟をやとい江戸鉄砲洲に向ったのは七月の某日であった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうかして心を入れ替えたいと思いまして、上総かずさの国、富津ふっつというところに保養に行っている知り人をたずねながら、小さな旅を思い立ったこともあります。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
慶応けいおう初年しょねん、私の叔父おじ富津ふっつ台場だいばを固めてゐた、で、或日あるひの事。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そのころ、横浜から上総かずさ行きの船が出ました。荷物を積んで横浜と富津ふっつの間を往復する便船でしたが、船頭に頼めばわずか十銭の船賃でだれでものせてくれました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)