字名あざな)” の例文
ずいぶん古いものらしく、辻堂という字名あざなもそこから出たということであるが、二人はその蔭へ入って、風を除けながら待った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かくして法師丸は父の字名あざなの一字をもらって河内介輝勝かわちのすけてるかつと名のり、同じ年の夏には一閑斎に従って箕作城みづくりじょうの城攻めに加わり、早くも初陣ういじんの功を立てた。
裏門を過ぎると、すこし田圃たんぼがあって、そのまわりに黄いろい粗壁あらかべの農家が数軒かたまっている。それが五条ごじょうという床しい字名あざなの残っている小さな部落だ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
富士の裾野の三合目に、一人の剽盗ひょうとうがございます。字名あざな陶器師すえものしと申します。大きな陶器のかまを作り、毎日陶器を造っております。いえいえ陶器ではございません。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
急いで還ろうと飛んで往ったという田圃路たんぼみちに、安東寺の字名あざななどが残っており、その時親がよろこんで団子だんごを食わせた記念として、毎年同じ日に村では団子祭をするといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「名無しの権兵衛と申します」妓は盃をぐっとあけて云った、「字名あざなをおつる、どうぞよろしく」
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
歌姫うたひめという美しい字名あざなだ。こんな村の名にしてはどうもすこし、とおもうような村にも見えたが、ちょっと意外だったのは、その村の家がどれもこれも普通の農家らしく見えないのだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)