天璋院てんしょういん)” の例文
遠く江戸城の方には、御母として仕うべき天璋院てんしょういんも待っていた。十一月十五日には宮様はすでに江戸に到着されたはずである。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほんにねえ」は到底とうてい吾輩のうちなどで聞かれる言葉ではない。やはり天璋院てんしょういん様の何とかの何とかでなくては使えない、はなはだであると感心した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十四の年に後家さんになった将軍の御台所が、すなわち天璋院てんしょういんであります。天璋院殿は島津の息女であったけれども、近衛家このえけの養女として、将軍家定に縁附いたものだということであります。
「何でも天璋院てんしょういん様の御祐筆ごゆうひつの妹の御嫁に行ったきのっかさんのおいの娘なんだって」「何ですって?」「あの天璋院様の御祐筆の妹の御嫁にいった……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これらの報知しらせが江戸城へ伝えられた時の人々の驚きはなかったという。ことに天璋院てんしょういん和宮様かずのみやさまをはじめ、大奥にある婦人たちの嘆きは一通りでなかったとか。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
車屋のかみさんやら、二絃琴にげんきん天璋院てんしょういんまで買収して知らぬに、前歯の欠けたのさえ探偵しているのに、寒月君の方ではただニヤニヤして羽織の紐ばかり気にしているのは
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半蔵らは江戸の町々に山王社さんのうしゃの祭礼の来るころまで待ち、月を越えて将軍が天璋院てんしょういん和宮様かずのみやさまと共に新たに土木の落成した江戸城西丸へ田安御殿たやすごてんの方から移るころまで待った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天璋院てんしょういんといえば、当時すでに未亡人みぼうじんであるが、その人を先の将軍の御台所みだいどころとして徳川家に送った薩摩さつまの島津氏などもつとに公武合体の意見をいだいていて、幕府有司の中にも
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「待ってください。ここに静寛院せいかんいんさまと、天璋院てんしょういんさまのことも出ています。この静寛院さまとは、和宮かずのみやさまのことです。お二人ふたりとも最後まで江戸城にお残りになったとありますよ。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)