大仁おおひと)” の例文
大仁おおひと行きの馬車は家々の客を運んでゆく。赤とんぼが乱れ飛んで、冷たい秋の風は馬のたてがみを吹き、人の袂を吹いている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
末延は森林主事に助けられて大仁おおひとの病院へ運ばれたが、脊椎の骨折で二日後に死んだ。ペルシャ模様のネッカチーフは現場にあった遺留品だということだった。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところが、亡くなった森田武彦君という人のすすめで、にわかに情熱らしいものが出て来て、年の暮れに箱根、年あけて伊豆大仁おおひとなどにこもって書いたのが、大部分であった。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
我々はついに三島みしままで引き返しました。そこで大仁おおひと行の汽車に乗り換えて、とうとう修善寺しゅぜんじへ行きました。兄さんには始めからこの温泉が大変気に入っていたようです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大仁おおひとから高等馬車が出るとのこと、さっそく私も修善寺まで一台注文すると、新橋あたりでさんざん稼いだ大古物、生れて初めて乗る馬車がこのはげちょろに全くうんざり。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
夫人 大仁おおひとで。……自動車はつい別になりましたんですが、……おなじ時に、——
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大仁おおひと理髪組合の掲示をみると、理髪料十二銭、またそのわきに附記して、「但し角刈とハイカラは二銭増しの事」とある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その日は東京から杉本さんが診察に来る手筈てはずになっていた。雪鳥君が大仁おおひとまでむかえに出たのは何時頃か覚えていないが、山の中を照らす日がまだ山の下に隠れない午過ひるすぎであったと思う。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大仁おおひとの町を過ぎて、三福さんぷく田京たきょう、守木、宗光寺畷そうこうじなわて、南条——といえば北条の話が出た。……四日町を抜けて、それから小四郎の江間、長塚を横ぎって、口野、すなわち海岸へ出るのが順路であった。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大仁おおひと理髪組合の掲示をみると、理髪料十二銭、またその傍に附記して「ただし角刈とハイカラは二銭増しの事」とある。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これから大仁おおひとの町まで行って、このあいだあつらえておいたのみ小刀さすがをうけ取って来ねばなるまいか。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十年ぶりで三島みしま駅から大仁おおひと行きの汽車に乗り換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十年ぶりで三島駅から大仁おおひと行の汽車に乗換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。
春の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春彦 大仁おおひとの町からもど路々みちみちに、物の具したる兵者つわものが、ここに五人かしこに十人たむろして、出入りのものを一々詮議するは、合点がてんがゆかぬと思うたが、さては鎌倉の下知によって
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)