夕霧ゆうぎり)” の例文
二つのを口にかざしながら、雲とも夕霧ゆうぎりともつかない白いものにボカされているてへ、声かぎりび歩いてきた。返辞へんじがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東京の街には夕霧ゆうぎりけむりのように白く充満して、その霧の中を黒衣の人々がいそがしそうに往来し、もう既にまったく師走しわすちまたの気分であった。
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
若菜において文章も叙述の方法も拙かった作者は柏木かしわぎになり、夕霧ゆうぎりになり、立派なものになってきた。内容に天才的な豊かなものが盛られているからである。
彼は、素直すなおに伝右衛門の意をむかえて、当時内蔵助が仇家きゅうか細作さいさくを欺くために、法衣ころもをまとって升屋ますや夕霧ゆうぎりのもとへ通いつめた話を、事明細に話して聞かせた。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藤十郎は、得意の夕霧ゆうぎり伊左衛門を出して、これに対抗した。二人の名優が、舞台の上の競争は、都の人々の心をき立たせるに十分であった。が新しき物を追うのは、人心の常である。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)