壺中こちゅう)” の例文
それに比べると壺中こちゅうの天地のようなものでしたから、一時は迷いましたけれど、今ではすっかりお馴染なじみになって
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その範疇を打開することが修業の第一歩であろう、頭の中からまず学問を叩き出すがよい、跼蹐きょくせきたる壺中こちゅうからとびだして、空濶くうかつたる大世界へ心を放つのだ、窓を明けろ……
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鶴見が壺中こちゅう天地てんちなぞというのはこんなものかと思っているうちに、夢が青い空気のなかからしぼりだされる。虚無の油である。それがまた蟄伏ちっぷくしていたくちなわのうごめきを思わせる。
しかし自から不幸の輪廓をえがいてこのんでそのうち起臥きがするのは、自から烏有うゆうの山水を刻画こくがして壺中こちゅう天地てんちに歓喜すると、その芸術的の立脚地りっきゃくちを得たる点において全く等しいと云わねばならぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白骨は壺中こちゅうの天地でありましたけれど、ここは山間の部落であります。溶けて流れない沈静が、ここへ来ると、なんとなく陽気に動いていることを感じます。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
貴様も若い身空みそらじゃ、そう長持の中に隠れていずと、ちっとは広いところへ出てこいよ、壺中こちゅうの天地ということもあるから、それは長持の中もよかろうけれど
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
久しぶりで壺中こちゅうの天地を出て、今宵はじめて天と地のやや広きところへぬけ出したから、この辺から雲を呼んで昇天するというつもりでもないでしょうが、ほんとうに久しいこと
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その瞬間、四粒の天地は、早くも五倫の宇宙から、壺中こちゅうの天地に移動している。つまり、はっという間に四つの小粒が、今し関守氏から借り受けた湯呑の中へ整然として落着いているのです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)